私が最も好きな映画は、
ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』です。
カメラマンの夫について東京に来た主人公のシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)
まだ新婚だというのにすでに結婚生活に不安を抱いてしまい、
なんとなく将来に希望を見出せない状態。
夫が仕事をしているあいだ、
もやもやした気持ちと共に 異国の街《トウキョウ》をさまよっていた。
ある夜、彼女は、同じく将来に希望を見出せない中年の俳優ボブ・ハリス(ビル・マーレイ)
とホテルのバーで知り合う。
シャーロットとボブは、シャーロットの日本の友人たちと共に東京の夜で遊び、
お互いに抱えるむなしさを共有し、友情を深めていく...
というお話。
この映画の魅力はいくつもあるのですが、
中でもとくに、シャーロットとボブの存在の不確かさに惹かれます。
いつまでも気持ちが晴れない2人は、着地点がわからずに浮遊しているように見えます。
2人がもともと抱えている満たされない気持ちに、
言葉がわからない異国の地にいるという不安感が加わって
満たされない気持ちをさらに強く感じるようになってしまい、
もうどこに行けばいいのかわからないよ... という感じです。
「あ〜、不安だよね。わかるわかる」って、観るたびに思います。
2人が抱えている、どこに着地すればいいのかわからない浮遊した気持ちって、
誰もが持っているものだと思います。
みんな、自分の価値観で一番大切にするものを決めたり、
物事に優先順位をつけることで、自分なりにひとまずの心のあり方を
決めているけれども、心のあり方が決められないと、
私たちの心はふわふわと浮遊し続けるのではないかと思います。
異国の文化に触れて価値観が揺さぶられた二人の心は、
どこに行けばいいのかわからなくなってしまって、
ロスト(迷子)してしまうわけですが、
観ている私たちが不安にならないのは、
シャーロットとボブが、寄り添いながら迷子になっているから。
「人の居場所なんて、誰かの胸のなかにしかない」
という言葉が、これまた私が大好きな小説であり映画にもなっている
『冷静と情熱のあいだ』にでてきます。
東京で過ごす時間のなかで、シャーロットとボブはお互いに、
相手の胸の中を自分の居場所にしていたのではないでしょうか。
それはもう、友情ではなく恋愛だったと思います。
ラブストーリーだったから、ラストシーンがあんなにも切なく感じるのだと思います。
それぞれの生活に戻ったあとも、東京での冒険を思い出すたびに
2人の心はお互いの胸の中に飛んで行くのでしょう。
『ロスト・イン・トランスレーション』観ていないかたは、ぜひ。
同時上映作品だった『her / 世界でひとつの彼女』は、ソフィア・コッポラの旦那さんである
スパイク・ジョーンズ監督の作品です。こちらも良かった、泣きました。