府中市美術館で開催中の「マリー・ローランサン展」と、
国立新美術館で開催中の「ニキ・ド・サンファル展」を取材させていただきました。
どちらもフランスの女性アーティストの展示です。
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マリー・ローランサン展「かわいいを追及したパリジェンヌ」
http://claudecour.jp/marielaurencin.html
ニキ・ド・サンファル展「それでも私たちは強く生きることができる」
http://claudecour.jp/niki.html
パステルカラーをつかい、「かわいい」をテーマに美しい作品を制作し続けたローランサン。
鮮やかな色彩をつかい、自身の心の葛藤や社会への不満を表現した力強い作品を制作し続けたニキ。
2人の作風の違いには、生きた時代背景が違うということが大きく影響していると思いますが
(ローランサンの時代は退廃的で優美な雰囲気が、
ニキの時代はカウンターカルチャーが流行っていました)
それぞれの生き方や考え方の違いも見えてきたのが、面白かったです。
特に男性に対する考えの違い。
これが、それぞれの作品に大きな影響を与えていて、
2人の作風の違いを生み出している要因のひとつでもあるように思いました。
男性と言えば「父親」。
ローランサンとニキの人生の始まりをみると、
2人とも父親との関係で問題を抱えています。
ローランサンは私生児として生まれ、
父親のことを「時々やってくる人」としか思っていなかったそうです。
ニキは父親から性的虐待を受け、複雑な感情を抱いていたそう。
ローランサンは男性をほとんど描きませんでした。
男性から肖像画の依頼が来ても、高額でしぶしぶ引き受けるという感じだったようです。
徹底して自分が美しいと思う世界を描いたローランサン。
男性を描きたがらないということは、彼女にとって男性は描くべき美しいものではない、
彼女の表現したい理想の世界には男性はいない、ということだったのではないかと思います。
その原因は、父親との絆の薄さだったのではないでしょうか。
父親のいない環境でレースやリボンといった女性らしいもので遊んで過ごした子供時代が、
ローランサンの表現の土台となっているようです。
ニキは男性をテーマに作品を制作しました。
ニキの作品のなかで、男性はたびたび「怪獣」の姿で登場します。
怪獣からイメージするものといえば「破壊」や「暴力」です。
しかし、怪獣の気持ちを表現した作品(《モンスターのハート》)も制作していることから、
男性を理解すべき存在として捉えていたことがわかります。
優しい父と乱暴な父を知っていたニキは、
男性(人間、と言ってもいいかもしれない)の複雑さをよく理解していました。
そして、表現するべき大切なテーマとして男性をとらえていました。
《モンスターのハート》をみたとき「ニキは人間についてよく考えたんだろうなあ」と思い、
ジンとしました。
作品には作家の生き方や考え方が表われています。
そして作品から作家自身の姿が見えたとき、なんともうれしい気持ちになります。
この気持ちは芸術鑑賞を通してでしか味わえない気持ちで、
この気持ちを味わうことは、芸術鑑賞のひとつの目的になるのではないかと思います。